1976年昭和51年6月20日発行ファンクラブ会報「五郎」より抜粋
☆ラリーカールトンは神様だ
彼に初めて会ったときは、もうただ感激の眼差し。演奏なんか聞くと、手なんか自然に震えてきて、止めようとしても無駄。なにしろ彼はギターの神様だ。実を言うとロスに行く前から、僕のバックには常時、彼のカセットが入っていて、暇さえあれば聞いていて、心酔していたギターリストだ。そんな彼が僕のためにプレーしてくれるなんて、一段とファンになってしまった。おかげで前からもそうだったけれど、日本に帰ってからギターの音が聞こえてくると、自然に右手で腰のあたりを弾く し、左手はそれに合わせて左肩のところで弦を押さえちゃう。たまんないんだ。最後にはギターにサインまでもらっちゃった。
☆ギター
彼に紹介してもらったギターショップで、ギブソンのレスポール型52・56・57年の3本も買っちゃった。おかげで僕の小遣い、底をつきそう。でもわかんねーだろうなぁ。本当にギターバカじゃなきゃギターの可愛さは、とうてい理解できないと思うんだなぁ。これで僕のエレキギターも13本になったけれど、みんな微妙なところで違うんだなぁ。
☆証言その1
五郎の部屋に入ってビックリ! ベッドの回りから下まで部屋中ギター・ベースなど。楽器の中に小さくなって眠っているんだよ。あの部屋で夜中にひとつひとつ弾いては「ニター」ひとりで楽しんでいるところなんか、見てる人には気持ち悪いと思うよ。
☆証言その2
五郎はロスから帰った初日のステージから引くつもりで、ロスに旅立つ前にロスのお小遣いの中から、日本でグレコのギターを買いました。自分用に調整してもらうことと、ペインティングを頼んで行ったんですけど、帰ってくるや、すぐ、それを取りに行き、どこに寄り道してもそれを離さないんですよ。それで気のあう人ごとに「じゃあちょっとだけね」なんて、見せてくれなんて頼みもしないのに見せるんだ。本当にうれしいんだね(事務所のお兄さん達より)
☆ロス八分
もうご存じとは思いますが、僕たち一行はロスについて、すぐに取り決めたことがあるんです。僕を筆頭に、西川社長、ポリドールの中村さん、早塚さん、それに取材のお姉様まで。全員ロスでは髭を剃らないこと。剃ったものはロス八分を宣告なのだ。これがまぁ伸びる伸びる。お互い顔を見て、ふき出す毎日。鏡に向かってニッ。この髭が見知らぬ国で仲間とすれ違ったとき、ふと温かさを感じさせてくれたとも言えるのです。
☆とっても自由な僕
休憩になると、全員で会場の外に飛び出すんだ。前の道路わきに座りこんでハンバーガーをかじるんだ。ラリーや事務所の人も、東海林先生もジーパンとTシャツ姿にヒゲ面で、大口開けて笑ったり話したり。それが日本じゃ奇妙なものに見えるかもしれないけど、左足を投げ出してとっても気持ちいいんだ。
☆コーヒー
相変わらずよく飲んだけど、最高は1日16杯。でも不思議と胃がちっとも痛くならないのだ。超アメリカンなんだなあ。
☆フリータイム
買い物といっても、ロスではそんなにしなかったし。グッチのショルダーは買ったその日から使い始めたよ。それに仕事を全部終了した後、プールのあるホテルに移ったんだけど、そこで一日中昼寝をしながら焼いたよ。その後ハワイでまた焼いて、もう真っ黒。日本に帰ってきてボタンのシャツしか着ないんだ。だってお腹まで外して見せてあげるから。
☆ディスコ
こんなことあまりなかったのだけれど、夕食の後、ディスコに行ったんです。そうしたらちょうどアルバート・キングが出演していたんです。ロックのサウンドにのせて体中で歌ってる。歌の内容は、女性から男性への愛の歌なんだけど、もう女性そのもの。女ぽいって感じた人もいると思うけど、僕には分かり過ぎるぐらいだった。ぼくもアドーロを歌ってる時なんか、自分が女性になったような錯覚を起こすことがあるから。
☆ラスベガスの空は紺色
日本では絶対見られない空の色。ハワイはブルー。ラスベガスは紺色なんだ。そして広い砂漠の中に、ぽつんと華やかな町があり、そこからまた永遠と道だけが延々と続いているんだ。
地球の果てまでも 続いていそうなただ1本の道に ひとりたたずむ
僕が20年間 生きてきたこと かかわりあった人々
日本の音 世界の音
すべてが吸い込まれてしまいそうな 広い広い大地
かくれんぼするもの この指とまれ
かけて、かけて
大地に 耳を押しあてて 熱い鼓動を聞いた
僕のハートが共鳴して 新しい何かが僕に呼びかける
野口五郎
☆ショー
僕はどうも出ず嫌いというか、出不精というか、そんな人なんですね。でもなんとなくみんなに連れられ、スーツまで用意してラスベガスまで。ディナーショーなんですけど、女性はイブニングとかギンギンの衣装でも、男は何でもいいらしいですね。何しろ僕の例のスタッフがみんなジーパンスタイルで、おまけに髭まで汚くて、何のクレームもつかないですんなり入れたものですから。ダイアナロスとエンゲルベルト・フンパーティングなどを見ました。驚いたのはダイアナロスです。その歌もさることながら、ショーとはこういうものだと見せつけられたような感じです。行くときはしぶしぶの僕も、帰りは大満足。
☆5月12日~14日 僕の出番です
凄いというしかない。このバックサウンドに僕の歌を入れると思うと、緊張せずにはいられなかった。名プレーヤーがズラリということもあって、他のいくつかのスタジオから見学に来ている中で、僕の全力を出し切って歌った。ただそれだけ。歌ってるうちに涙がでてきて仕方がなかった。みんなも泣いている。ちょうど北回帰線を歌っているときだった。この感激はわかってくれるかなぁ。たとえ誰もわかってくれなくても、このLPは僕のベストコレクションと言い切れる。この後、ラマダインというホテルに移って、トラックダウンを済ませました。半月以上を共にした仲間に、かなり未練を残しながら、この感激を胸に、両親や兄貴達のいるハワイへ向かいました。5月19日でロスとお別れだ。またぜひ訪れたい街、ロサンゼルス!!